陸上競技の中で最も人気が高くて、花形競技である「100メートル」。陸上男子100メートルは、特に気になりますよね。今回は、陸上男子100メートルの世界記録の推移とともに、時速に換算すると何kmなるのかも調べてみました。
100メートル 世界記録の推移(現在)
10秒6 1912年7月6日 ストックホルムオリンピックでの記録。
国際陸連初めての公認記録。アメリカ国籍選手
10秒4 1921年8月23日~1929年8月25日 アメリカ国籍選手
10秒3 1930年8月9日~1935年6月15日 カナダ国籍選手
1935年6月15日は日本人の吉岡隆徳選手の記録。
10秒2 1936年6月20日~1956年6月29日 アメリカ国籍選手
10秒1 1956年8月3日~1959年4月18日 アメリカ国籍選手
10秒0 1960年6月21日~1968年6月20日 西ドイツ国籍選手
9秒9 1968年6月20日~1968年6月20日 アメリカ国籍選手
※手動による計測では、下2桁までは計測できなかったのですね。
世界的に100mの電動計測が始まったのは、1964年の東京オリンピックからです。
1976年以前の電動計測による世界記録は、1968年のメキシコシティオリンピック男子100m決勝でアメリカ国籍選手が記録した9秒95です。
電動計測が始まった当初は手動計測と併用され、両方の記録が公認されていましたが、1977年1月より、国際陸連は電動計時による記録のみを公認するようになりました。
◆1977年以降の世界記録の推移
ここからは、1977年以降の世界記録の推移です。
9秒93 1983年7月3日 カルヴィン・スミス アメリカ合衆国
9秒92 1988年9月24日(ソウルオリンピック)カール・ルイス アメリカ合衆国
9秒90 1991年6月14日 リロイ・バレル アメリカ合衆国
9秒86 1991年8月25日(第3回世界選手権・東京)カール・ルイス アメリカ合衆国
9秒85 1994年7月6日 リロイ・バレル アメリカ合衆国
9秒84 1996年7月27日(アトランタオリンピック)ドノバン・ベイリー カナダ
9秒79 1999年6月16日 モーリス・グリーン アメリカ合衆国
9秒77 2005年6月14日 アサファ・パウエル ジャマイカ
9秒74 2007年9月9日 アサファ・パウエル ジャマイカ
9秒72 2008年5月31日 ウサイン・ボルト ジャマイカ
9秒69 2008年8月16日(北京オリンピック)ウサイン・ボルト ジャマイカ
9秒58 2009年8月16日(第12回世界陸上・ドイツ・ベルリン)
ウサイン・ボルト ジャマイカ
◆人類が到達した現在の最速は
9秒58
この記録がいかに驚異的かを示す数字を見てみましょう。
- 反応時間: 0.146秒(非常に優れた反応速度)
- 最高速度: 44.17km/hを記録(65.03m地点)
- ストライド長: 約2.6m(一般的なスプリンターより20%以上長い)
- ストライド数: 100mを約41歩で走破(一般的なスプリンターは45-48歩)
ボルトの身長195cmという長身が生み出す長いストライドが、彼の記録の大きな要因となっています。通常、スプリンターは170-180cm程度の身長が有利とされてきましたが、ボルトはその常識を覆しました。
また、ベルリン世界選手権当日の条件も記録樹立に寄与しました。
- 気温:27℃(筋肉の動きに最適な温度)
- 風速:+0.9m/s(規定の+2.0m/s以内で、かつ追い風)
- トラック:モンドトラック(高反発素材で知られる)
歴史的に見ると
人類が10秒の壁を破るまでに、飽くなき挑戦を続けて、実に56年あまりの年月を要しています。
◆9秒台突入の歴史的瞬間
人類が初めて9秒台を記録したのは1968年のメキシコシティオリンピックでした。
ジム・ハインズが記録した手動計時9秒9(電動計時では9秒95)は、当時「人間の限界」とされていた10秒の壁を打ち破る歴史的瞬間でした。
これが可能になった要因として
- 高地開催: 標高2240mという低酸素環境が、逆にスプリントには有利に働いた
- 全天候型トラック: オリンピックで初めて導入された合成素材のトラック
- テレビ中継: 世界中に生中継され、その歴史的瞬間が多くの人々に共有された
手動計時と電動計時の差は通常約0.24秒と言われています。これは人間の反応時間による誤差で、手動計時では常に記録が良く出る傾向がありました。この差を考慮すると、10秒0の手動記録は、現代の電動計時では約10秒2-10秒3に相当します。
・10秒6から10秒4の0秒2を縮めるのに約9年を要しています。
・10秒2から10秒1の0秒1を縮めるのに約20年を要しています。
1977年1月からは、電動の計測に変わり正確さと細かさで何秒以下2けたまで計測できるようになり、世界記録の更新も1年から2年くらいに短縮されてきましたね。
人類の進化には、驚きますよね。
◆記録向上を支えた技術的進化
世界記録の進化は、人間の身体能力向上だけでなく、技術革新によっても支えられてきました。
- 計測技術: 手動計時(1/10秒単位)から電動計時(1/100秒単位)への移行
- スターティングブロック: 1948年のロンドン五輪で初導入、その後も形状や材質が進化
- トラック素材: 粘土や灰から合成ゴム、そして現代の高反発ポリウレタン素材へ
- スパイクシューズ: 軽量化と推進力向上(1960年代の200g超から現在は100g前後に)
特に注目すべきは、同じ選手が異なる時代の環境で走った場合の推定タイム差です。1950年代の設備で走った選手が現代の環境で走れば、約0.2-0.3秒の記録向上が見込まれるという研究結果もあります。
国別・地域別のスプリント強豪国の変遷
100m走の強豪国は、時代と共に変化してきました。
◆スプリント界のパワーバランス
- 1960-1990年代: アメリカ合衆国の一強時代(カール・ルイス、モーリス・グリーンなど)
- 1990年代中期: カナダの台頭(ドノバン・ベイリーが金メダル)
- 2000年代以降: ジャマイカの躍進(アサファ・パウエル、ウサイン・ボルトなど)
特にジャマイカの台頭は顕著で、人口約280万人の小国から多数のトップスプリンターが輩出されています。その理由として:
- 遺伝的要因: 西アフリカ系の祖先を持つ人々の速筋繊維比率の高さ
- 若年層発掘システム: 全国学生選手権(チャンプス)の存在
- 競争環境: 幼少期から短距離走が国民的スポーツとして浸透
- トレーニング方法: 地元での練習重視と独自のトレーニング体系
時速に換算すると
100mを10秒で走ると平均速度は秒速10m、時速に換算すると36km。
世界最速、人類最速の9秒58の時速換算は、37.58km/h。
最高時速は65.03m地点での44.17km/hだそうです。
人類の肉体的、精神的な進化はどこまで続くのでしょうか。9秒の壁を破る日もくるのでしょうかね。
未来予測:9秒5の壁は破れるのか
ボルトの9秒58という記録は、2009年から10年以上更新されていません。人間の肉体的限界はどこにあるのでしょうか。
◆理論上の限界と今後の展望
スポーツ科学者らの研究によると
-
理論上の限界: 約9.48秒という計算結果(筋繊維構成、反応速度、力学的効率の最適化を仮定)
-
記録停滞の理由: ドーピング検査の厳格化、天才的資質を持つ選手の希少性
-
今後の進化曲線: 100年で約1秒という緩やかな進化が予測される
9秒5の壁を破るには、ボルト以上の身体能力と、さらなる技術革新が必要になるでしょう。現在の有望株としては、アメリカのノア・ライルズ、ケニアのフェルディナンド・オマンヤラなどが挙げられますが、ボルトの記録に迫るにはまだ距離があります。
100メートル走の記録は、人間の身体能力の限界への挑戦であると同時に、科学技術の進化と各国の競争が織りなす壮大な物語でもあります。今後も人類の「最速」への挑戦は続いていくことでしょう。
本日も、最後までお読みいただきありがとうございました(感謝)
関連記事
女子100メートル世界記録推移(現在と歴史)!時速換算何km(男女比)
42.195㎞は歩くと何時間かかる?距離はどのようにして測っているのか